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【きれいな表面ときたない表面】
 油や泥で汚れた作業衣を洗濯すればきれいになるように、錆びた鋼板を酸洗いすれば金属光沢のある面が得られるが、これは本当にきれいな面だろうか? 私に言わせれば、見た目にはきれいでもきたない表面だ。なぜなら洗浄後しばらく空中に放置すればその表面には鉄の酸化物、水酸化物などが存在するはずで、雰囲気中の有機物質まで吸着する。金属表面を酸やアルカリで溶出すると金属原子が露出した表面が得られると考える人があったら、それは間違いだ。そうなった途端、金属原子が洗浄液中の水や空気中の酸素と結び付くからである。

 ではどうすればきれいな金属表面が得られるのだろうか?それには金属を洗浄・乾燥した後、真空中で表面の有機物質を酸化し、金属酸化物を還元し、あるいは不活性イオンで表面をたたき出した後、その表面を超高真空中に保持すればよい。そうすればその金属の原子だけしか存在しない表面が得られるが、超高真空と言っても極微量の酸素があるから、時間が経てば表面に酸素が吸着してしまう。私に言わせればこれも酸素で「汚染された表面」なのである。

 というわけで、見た目にきれいでも金属表面はじつはきたない表面であることが多い。たとえきれいにしたとしても、それは超高真空中で極く短時間しか存在できないようなものなのだ。

 厳密に言えばこういうことだが、そんなことを言っていたのでは、洗浄しても意味がなくなってしまう。見た目できれいかどうかの感覚的判断は科学的ではないにしても、きれいかきたないかは着目する物質が表面に存在するかどうかで決めるのが合理的であろう。酸化物で覆われていても有機物質が存在しない表面ならば、有機物に関してはきれいな表面ということになる。しかし絶対に有機分子が存在しないかと言えば、空気中にあってはこれまた表面に吸着層を生ずるまでの僅かな時間での話である。それから表面分析が進歩してその感度が高まるにつれて、今まではきれいだと思われていた表面もじつはきたない表面だったということも起こっている。

 だからと言って神経質になり過ぎてはいけない。きたない表面でも使いこなすのが表面技術なのだから。

<村川 亨男>




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